書へのアプローチ

“ 白 と 黒 ”

元本院名誉顧問 伊藤鳳雲(1916~2000)

 「書」は紙の白と墨の黒との調和だと思います。白が先で黒が後か、黒があってそこに白が生れるのかが考えられる。書はその人の思想と人生経験によって生まれます。 作品にはその人の心がどう表現されるかですが、それは「自然」にであり、また「苦心」してでもありましょう。

 「書の前に立ったときにそれを書いた人の心が伝わってくる」また「作家は常に古い物をぬぎ捨てることが大切だ」と言う人があります。ときどき聞く言葉です。 或は「芸大を卒業した頃の新鮮な気持ちに戻って、再び出発点に立ちたい」と話される人もあります。それぞれ自分の道を模索して、これからの進む方向を考えます。

 日本の書はその揺籃期(奈良・平安)の紀元800年頃から凡そ700年後、室町・江戸期(紀元1500年頃)になると、庶民文化の中に幅広く浸透していった。 そして明治・大正と進み、現在紀元2000年を迎えて、書法はより奥深くなり技法は極致となりました。

 芸術は時代と共にあるものです。「書」が読める読めないに関係なく、新しい方向を求めて展開していくことは自然の勢いであろうと思います。

<平成8年(1996)6月10日発行、会報93号より>